相続対策~隠し子がいる場合~

被相続人が認知していれば遺産分割にあたって印鑑をもらう必要があります

もしも自分の知らないところに自分の血のつながった人がいたらどうしますか?いわゆる「隠し子」の存在です。
心情的には一度もあったことない人を家族の一員として迎え入れることには抵抗があるでしょう。

つぎのケースは「隠し子」の存在によて相続手続きに問題が起こったケースです。
ある家族が相続登記の手続きの依頼にこられました。
「父が一週間前に亡くなって、相続登記のお願いをしたいのです。相続人は母(被相続人の妻)と私を含めた3人の子どもだけです。母が高齢であるため長男である私が母を引き取って面倒を見るかわりに、相続財産をすべて相続することになりました。みんなも了承してくれています。遺産分割協議書の内容も、その方向で作成をお願いします」
ご家族の依頼は、このような内容のものでした。
「承知しました。では早速ですが、まず亡くなられたお父さんの戸籍を集めてください。ただもしかすると、まだ亡くなられて一週間程度しかたっていないので、お父さんの戸籍簿には死亡の記載がされていないかもしれません。とくに死亡届を提出された役所と本籍地の役所が違う場合には、戸籍簿に死亡の記載がされるまでには、少し日数がかかると思います。お父さんの出生の当時から死亡の記載がされた戸籍が集まりましたら、郵送願います」
その後、指定したとおりに、戸籍一式が送られてきました。
(当事務所で戸籍収集を代行することももちろん可能です)

戸籍簿を見ると隠し子の存在が・・・

誰が相続人になるかを確認するために戸籍簿に目を通していると、目を疑うような記載がありました。戸籍の死亡事項のあとに、遺言執行人の届出による認知された子供の記載があったのです。
そうです。このご家族のお父さんには「隠し子」がいたのです。ご長男が「相続人は母と私を含めた3人の子供だけです」と言っていたことを思い出し、お父さんに認知した子供がいたことを伝えました。そして、「認知された子」にも相続分があることを説明しました。ご長男は、「母にどのように話をすればいいんだろう」と悩んでいました。

認知されなければ父子関係は認められない

「隠し子」の存在は、当事者を含めた家族関係のバランスを壊しかねない事実です。では、「隠し子」を法はどのように位置づけているのでしょうか。
婚姻関係にない男女のあいだに生まれた子供であっても、当然に親子関係が認められるとお考えかもしれません。「血のつながった子供だから当然でしょう」と思うかもしれません。たしかに母親については出産の事実がありますから、当然に母子関係を認めることができます。ただ、父子関係はどうでしょう。生まれてきた子供は「〇〇の子供」といった名札でもあればいいのですが、そんなことはありませんね。父子関係を証明するものは何もないことになります。今ではDNA鑑定などがありますから、父子関係を証明することは、できます。しかし、民法が親子関係を定めた当時は、そのよう技術がなく、父子関係を証明するものがありませんでした。そこで適正な父子関係を守るために、立法政策上、血縁関係だけでは父子関係を認めないことにしたのです。
親が自ら「自分の子供です」と意思表示さえすれば親子関係を認めようと考え、現在お「認知制度」が生まれたのです。つまり父子関係を法的に認めるためには①血縁関係、②父親の認知、③の2つが必要になるわけです。ちなみに民法は母親の認知も要求していますが、出産の事実さえあれば母子関係があることは明らかなので、実際には母親の認知は必要とされていません。
この認知は、父親の意思表明という側面もあるため、遺言によって行うこともできます。このケースでは、遺言執行人の届出で認知がなされたのですから、遺言によって認知を行ったのでしょう。

父親の責任と義務

認知された子がいても、紛争が起きないケースはあります。
通常、配偶者や子供の立場からすれば、「認知された子」の存在は好ましいものではなく、感情的になりやすく、円満に協議ができないことが多いものですが、もっとも妥当な処理策は何かといえば、やはり「父親の遺言」です。
遺言でもって相続分を決める、遺産分割の方法を指定する、こうして父親の気持ちを遺された家族に伝えることが、家族を紛争から守るベストな選択であるといえるでしょう。また、それが認知をした父親の責任と義務でしょう。
任意の認知は「父親」の自由な意思表示によって行われます。つまり父親「認知された子供」がいることによって家族がこの先どういった状況になるか、ある程度予想ができるということです。だからこそ、最悪の結末を迎えないためにも、遺言書の作成は「認知」をした父親の責任と義務ではないでしょうか。
遺言がない場合は、家庭裁判所の調停によって結論を導くことも考えられます。しかし、これも遺された家族を実質的には紛争に巻き込むことになります。無用な手続きを負わせることになります。やはり、「遺言書の作成」が何よりの策といえるでしょう。